「目」の字の改修工事
話は遡るのですが、
昨年末、鎌倉で「目」の字の改修工事を行いました。
その家とは、
昨夏開催した山梨での「山仕事塾」の帰り道に
初めて出会いました。
私より少し‘年上’のその家は、
三連泊した山梨から帰ってきて、
我が家の近所だったということもあったのか、
初めて会うのに懐かしい、
とくに夏の夕暮れどき、
白熱球に照らされた
畳と細格子の間に居ると、
そこに居合わせた小学生のSZちゃんが、
‘妹’と見紛うほどに、
自分が幼い頃に帰ってきたような気がする、
そんな家でした。
しかし一方でその家は、
大事な‘骨’がだいぶやられていて、
ナマズが暴れたりすると、
相当不安を覚える状態でもありました。
安心してその屋根の下で暮らせるために、
手を入れるべきお金のことを考えると、
普通に考えれば、
この家はもう、寿命なのかもしれない、
とも思ったのですが、
しかし、
背伸びしなくても済むお金の範囲で、
この懐かしい家が、
生き長らえることのできる術はないだろうかと、
建物作りをナリワイとする者の一人として、
また、もしこの問いに解を得たならば、
これも‘伝統’を現代に継承する、
一つの手段ではなかろうかということで、
何とかよい企みを考えてみたい、
そうした使命感のようなものが、
私の中で沸々と湧いてくるのでした。
そして建て主のIさんと話し合うこと数ヵ月、
行き着いた結論は、
既存の傷んだ木組みを敢えてそのままに、
そこに「目」の字の木組みを添えて、
建物を支える、というものでした。
そうすれば、
IさんとSZちゃんの手で塗った、
かわいらしい紅色の壁も、
壊さずに済みますしね。
ところで、なぜ「目」の字だったのかというと、
まずは耐震補強によく使われる筋交いの、
「×」の字を家の中で描くのが、イヤだった(笑)。
往々にして金物も見えてしまいますしね。
その代わり、
三尺四寸角の二本の横の木で軸組を固め、
それが結果的に「目」の字となりました。
伝統構法で使う「貫」の応用です。
それと、二本の横の木のところに、
何か飾る余地ができる、
あるいは、
きっと子どもが登って遊んでくれるといいな、
という思惑もあったのですが、
年末私が家を訪れると、
そうした思いが通じたのか、
SZちゃんがそこに登って遊んでくれていたので、
「ヨシヨシ」と、心の中で叫ぶのでした(笑)。
この改修工事の結果、
建て主のIさんのほうでも、
これを契機にいろいろヒミツの企みが出来たようで、
施工面積わずか0.3㎡ではありましたが、
お互いに大きな意味を持つ、
とても楽しい仕事となりました。
それでは、Iさん、
ヒミツの企みを、楽しみにしてまーす!