壁兄弟
木ずり部分の左官工事。
さて、どちらが「兄」でどちらが「弟」でしょう。
答えは、左が「兄」。
木ずりに、まず粘りのある土佐漆喰を下地に仕込む。
それが右の状態。
そのうえに中塗り土を塗る。
それが左の状態。
そしてさらに、仕上材を塗る。
外壁に塗られたばかりの土佐漆喰。
乾いたところとそうではないところのまだらが幻影的な感じがする。
「漆喰」だけど、淡い黄色を帯びているのが土佐漆喰の特徴。
これが長い年月をかけてだんだんと白くなってくる。
土佐漆喰とは、塩焼の消石灰に発酵した藁スサを混ぜてしばらく寝かしたもの。
もともと粘りがあり、糊を必要としないこともあって、水に強く、耐久性がある。
さすが雨の多い「土佐」。
経師屋が主に使う糊。写真手前から、
・CMC(ケミカルメチルセルロース)
・テングサ(海藻の一種)
・古糊(正麩を何年もねかしたもの。その間、カビがたくさん生えるそう)
・正麩
糊の話も、これまた奥が深い。
岩崎さんの糊に関する語録を。
・糊は本当は弱く貼る方がいい。今は短所に捉えられるかもしれないが、将来きれいに剥がすことができるので、更新可能。
・現在、正麩のような自然でできた糊と化学合成糊があるけれども、化学合成糊の方が圧倒的に簡単でばらつきがなく、きれいに仕上がる。だけど自分たちが自然の糊にこだわるのは、「意地」でやってる(笑)。
・しかし、10〜20年したらその差は絶対に出てくる。やはり自然の糊で弱く貼った方が長い間きれいだと思う。
・昔の名人は、究極は糊を使わないで水だけ!で貼る。
最後に。岩崎さんが言っていたことで印象的な言葉。
・いい仕事をする職人は宣伝しない。
・自分たちのまちにも、実は名人芸の職人が隠れているかもしれない。
・だから、設計屋はぜひ足で情報をつかんでほしい。
設計屋は、実は体育会系?
だから性分に合っているのか?
そういえば10数年前、グランドで走る量が自慢、なんて時代がありましたなあ(遠い目)。
写真は、むかしむかしの本。
本としては価値がほとんどないそうだけど、経師屋にとっては宝だそう。
何しろ紙質がいいのだそうだ。
古い紙は漂白されていないので、ほぼ昔の状態を留めている。それどころか、紙がなんともいえない柔らかさに落ち着いている。
これらを襖等の下地に使うのだ。
紙の世界は、下地に使う紙でも、本当に奥が深い。
しかし、これを壁の仕上に使ってもおもしろいんじゃない?
今日は、経師屋の岩崎さんの話。
木の建築塾はスタッフとしてお手伝いさせてもらっているが、今回は私が担当。
これまで岩崎さんとは面識がなかったが、これを機会に何回か木場にある岩崎さんの作業場を訪れ、経師屋の世界を垣間見て、今日お話いただくことを楽しみにしていた。
というのも、経師屋には、紙、糊、貼壁、表具、掛軸、屏風…、と多岐にわたる世界が広がっているからだ。
紙一つとっても、実に深く広い世界である。
事前の打合せで、岩崎さんが「2時間で足りるかなあ」というようなことを言っていたが、実際本当に足りなかった。
話し方は職人らしいポツリポツリとしたしゃべり方だけど、次から次に話題が湧き出てきて、次に何が出てくるんだろう、と興味を引き続ける。2時間が本当にあっと言う間であった。
伝統構法に取り組んでいるとはいえ、実は経師屋とはあまり接点がなかったこともあり、とても勉強になった。
紙にまつわる岩崎語録を幾つか。
・紙は古い方がいい。
・今の紙は苛性ソーダで漂白しているので、悪い材料でもごまかすことができる。
・紙には、裏表だけではなく、縦横がある。
・いい和紙の音は、パリパリという音。
・サンプルに載っているものをそのまま使うな。自分で世界を作ってほしい。
(ちなみに写真に写っているのは、ある施主が自分で紙に柿渋で模様をつけた独自のもの)
・「冷やかし」という言葉は、吉原と紙作りから由来している?
先週塗った荒壁が乾いてきた。
家に壁がつくと、「ああ、家になってきたなあ」と感じる。
木組みだけの状態も、竹小舞の状態も、いいけれど。
そのままの状態でいいのに、せっかくだからこの状態でイタ飯屋開こうや、と思いつつ、次に進んだら進んだで、またニンマリとしてしまう。