家族が乗組員となって航海する「船のような家」を造ろう、というコンセプトで建てた家です。二階を張り出した船枻(せがい)造りは船室のよう。家の棟の東端と西端に、家の内外の境にかかるように太い柱を立てたのですが、それが帆柱のようにも見えます。
用途:住居
竣工:2011.6.1
場所:横浜市〇〇町
延床面積:80.60㎡(24坪)
竣工時の家族構成:夫婦二人
道から少し下がった敷地に降りて来ると、はじめに見える家の顔。八角形の太い柱が、帆柱のように棟を支えています。二階が一階より張り出しているのを強調するために、一階の土壁は黒い顔料を入れた漆喰仕上げにしています。
家の中から見た八角形の柱。姿を強調するためと、採光のために、柱の左右は貫と貫の間にガラス窓を入れました。光の中に木が立っているようです。
八角形の柱のゴツイ節、節を取り巻く渦のような木目、両サイドに控える柱との対比など、木そのものの持つ、呪術的ともいえる存在感や見せどころがいっぱいです。岡部材木さんとの共同作業で、普通では使いにくい面白い木、個性のある木を活かす設計ができて、楽しかったです。
建具屋の新井正さんとも楽しいコラボレーションをしました。奥の部屋との境の大きな障子は、上下それぞれに障子窓が左右にスライドできるので、こんな市松模様に見せることもできるのです。
すべすべ、ゴツゴツ、ざっくり… 荒壁のまま仕上げとした壁、縁なしの畳、無垢の床板、荒々しい柱や梁など。自然素材のもつさまざまな色、テクスチャー、肌触り、存在感などの取り合わせが、この家の楽しさと気持ち良さを造っています。
中央に薪ストーブを据えた達磨窯の瓦を敷いた土間キッチン。南面すべてがガラス戸で、サンルームのようにあたたかく、明るいのです。敷き瓦が冬の陽射しを蓄熱する効果もあります。板の間の太い柱と柱の間に耳付きのクリの厚板を渡してローテーブルにしたのも、材木屋さんとの楽しい思いつき。土間でつくったご飯を大勢で食べるのに役立つし、じつは構造的にも利いています。
長野の北澤ストーブさんのクッキングストーブ。下段が焚き口、上段がピザやパンを焼ける窯。天板には炊飯竈が組み込まれていて、美味しいご飯も炊けます。ストーブの鋳物の黒と、敷き瓦の黒も表情が違っていて面白いのです。
小さな三和土の玄関。敷き瓦の土間は、沓脱ぎの面からは、一段あがっています。敷き瓦、こうしてアップで見ると、一枚一枚表情が違うでしょ?
左/竹林を見ながら入れる木のお風呂です。 右/二階は大きなワンルーム。土壁でゆるく仕切られた空間が、この船の乗組員である家族それぞれの「コーナー」となります。ガラス戸の内側に入れた障子の桟は、貫のラインに合わせ、外からは桟が見えないようにしました。
東面から見たところ。西面の八角形の柱と呼応するところに、より小ぶりな柱を立てました。材の木口を白く塗って、家の表情にリズムをつけています。
夜景。桟の見えない障子のおかげで、貫のラインだけが強調され、行灯のようです。