中塗り土が塗られた直後
深い緑色。
これが乾いてくると、色が薄くなってくる。
工程ごとに様々な色の壁を楽しむことができる。
後から内法の材を入れたので、小舞竹がはみ出している。
もちろん後から中塗りでふさぐことになっているが、
これはこれで野性的な雰囲気でよかったりして。
そういえば、よく左官屋さんにいくと、見本として竹小舞下地から仕上げまでの工程が分かるように竹小舞から少しずつずらして塗り重ねていくサンプルがあるが、それに少しだけ似ている。
あのような中のしくみが分かる図やサンプルって昔から好きだ。
きっと好奇心をそそるものであるということと、中がどうなっているかが分かる安心感なのであろう。
伝統構法の場合、構造体も含めて隠れるところが極めて少ない。
職人の技が問われる理由でもあるし、また建物側が作り手の姿勢に影響を及ぼすことは間違いない。
作っている間、自分の身の回りの材を傷つけないように、十分に気を使う必要があるからだ。
とくに、電気屋や設備屋などのたまに入る業者にとっては、とてもやりにくいかもしれない。
しかしそうした緊張感の連続が、よい家に結びつくと信じている。
今日は夕方まで自宅で作業の後、I邸に出かける。
大工の後藤さんやIさんと打ち合わせ。
訪れた習慣で、一人海に足を運ぶ。
午後7時半頃だっただろうか。
世間は夕餉を楽しんでいる時間帯。
しかし秋の夜の海は、予想以上に深い闇の中だった。
波の音が闇の中で迫るように強く響く。
波の音にかき消されるためか、他に何も聞こえない。
足元は砂浜なので、思うように歩が進まない。
向こうでは、灯台がせわしなくくるくると光って回っている。
闇の中で暴れているようにも見える。
秋の夜の海は、恐怖さえ感じる空間だ。
打ち合わせが終わりかけた頃、隣のHgさんが現場に来てくれた。
現場に入ると開口一番、「あたたかいですね」。
まだ吹きさらしに近い状態なのに。
白熱球が照らす赤い色がそう感じさせてくれるのか。
それとも、乾き始めた土壁の保温効果なのか。
言われてみれば、肌寒くなってきた外に比べれば、ほんのり心地よくあたたかい感じがした。
海の様といい、「あたたかい」という言葉といい、間違いなく季節が移ろいでいる。
もうさすがに葉山にも夏の残像はない。
少し寂しい気がした。