2014年7月25日
数日前、東京に出向いて、
「伝統木造の省エネを踏まえての住まいの快適性について」
という演題で、
建築環境学を研究されている
宿谷昌則さんのお話しをお聞きしました。
宿谷さんの提唱されていることを
一言で表すと、
「エクセルギー理論」に基づいて
建築環境を評価していこう、ということです。
そもそも「エクセルギー」という言葉が
私たちになじみがないので、
余計に分かりづらいかもしれませんが、
建築環境のエネルギー負荷を
考えるにあたり、
室内空気の温度だけの議論ではなく、
私たちの身体に
暑さ、寒さという作用を
引き起こす要因の総体を
評価していこう、
ということではないかと
思います。
つまり、
空気だけでなく、
人を見る。
具体的に言えば、
室内空気の温度を
冬は18℃、夏は30℃にしましょう、とか、
その空気温度を
できるだけ維持できるようにしましょう、とか、
そういう話だけではなく、
例えば
室内の表面の放射温度だったり、
風だったり、湿度だったり、
あるいは人間側でいえば、
室内での活動の内容だったり、
着衣量だったり、
暑さ寒さの感じ方に作用する
全てを踏まえて
建築環境を評価しよう、
という提言です。
その中でも
建築計画を考えるうえで
とくに大切な要素は、
室内の表面、
床や壁や天井などの
「表面温度」による
輻射熱だそうです。
これは経験上、
なるほど、と思うことが多いですね。
例えばコタツ。
室内空気の温度が2、3度の中、
コタツに入っていたことがありますが、
足が高い表面温度に接しているので、
全然寒いとは思いませんでした。
床暖房を入れた家も、
室内温度はそれほどではなくても、
足元の床の表面が温かいので、
室内温度以上の温かさを
感じます。
そう考えますと、
外皮の断熱性もさることながら、
表面となる仕上げの素材、
そしてその表面を
温めたり冷ましたり、
あるいは温まらないように、
または冷めないようにする装置が
大切ということになります。
また無視できない要素は、
生活、そして人自体が発する発熱量。
これを抑えたり、
生かしたりする工夫も
必要ということになります。
この考え方は、
木と土を素材に
快適な家を作っていくうえで
たいへん興味深いといえます。
例えば夏場、
なぜ木と土の家が
それほど暑く感じないかというと、
それらの表面の
吸放湿性が高いことにより、
湿度が抑えられるというよりは、
湿気を吸って吐いて、を
繰り返すことにより、
気化熱が奪われ、
表面温度の上昇が抑えられるからだと、
今日のお話しを聞いて感じました。
逆の話として、
気象の統計を見ると、
今と昔で実はそれほど大きく
夏の気温に変化がないのですが、
今の方が暑く感じるのは、
緑と土が少なくなる代わり、
コンクリートやアスファルトに
囲まれているからだと
説明がつきます。
一方で冬場、
なぜ木と土の家が
冷え冷えと感じないかというと、
それら表面が
なかなか冷めづらいので、
ほんのりと温もりに包まれた感じがして、
とくに朝起きた時に、
昨晩の人の温もりの残り香を
感じることができます。
また、
木や土の表面に
ずっと手を当てると、
なんとなく自分の温もりが
相手に伝わっていくような
気がします。
木と土は、
人と暮らしの温もりに
応えてくれるのですね。
それをどう生かすかが
快適性を高めるうえでの
鍵といえそうです。
そして、
お日さまとどう付き合うか。
お日さまの光は
とても温かいので、
夏は表面が温まらないように
ひたすら遮り、
冬は表面が温まるように
十分に受け入れて、
それをできるだけ逃がさない工夫が
求められます。
現在、住まいの省エネ性の議論は、
室内空気の加工を前提に、
それの効率化を高めることばかりに
力を注いでいますが、
それ以外にも「暮らし方」や
人力で対応できる「住まいの装置」の
工夫により、
「表面温度」を調整することによる効果も
かなり大きいのだと思うのです。
宿谷さんは
そのような要素も取り入れて、
住まいの省エネ性の評価が
できないものかという問題提起を
されているように思いました。
またそれに関連して、
冬場の暖房方法は、
エアコンやファンヒーターのような
対流式のものよりも、
床暖房や薪ストーブのように
放射式(輻射式)のほうが
有利であると改めて感じました。
実際そのような暖房方法を選択しているほうが
光熱費が抑えられている傾向を感じます。
さらにその熱源として
太陽熱や薪の利用が進めば、
資源循環性は高まりますね。
今後さらに
そのような暖房方法を
積極的に提案していきたいと思います。