目の前にある素材と。職人たちと。ともに家づくりする人たちと。たくさんの対話がその家の姿を形作り、家と人への愛を育みます。
モノ言わぬものたちとの対話
素材との対話。大工は、建物の構造を組むのに、どの木をどこに使うか、木に触り、木の表情を見て考えます。木のクセを状態や見ながら加工します。はじめから分かりやすく答があるのでなく、木と向かいあう中で、ふさわしい答がやってくるのです。
人と人との対話
建主さん家族と私の間での対話。これも、たくさんします。どんな暮らしをしたいのか。そこで子ども達にどう育ってほしいのか。家族構成が変化するにつれて、どうしていきたいのか。対話の中から、家族の思いを形にしていきます。
職人同士の対話。さまざまな職種の人の仕事が重なり合い、影響しあうのですから、どうするのが一番いいのか、考えを出し合って調整します。自分のやりやすさを相手に押し付けるのでなく、できあがるものが最良のものとなるように。
大工さんの加工場で柿渋塗り建主さんと職人との対話。打合せもですが、柿渋塗りや土壁の小舞かき、土塗り、建前など、建主さんが関われる作業の時に現場でいっしょに身体を動かし、気心が通じるようになると、職人達の「いいものを作ろう」という思いもより深くなります。
地域のこれからの姿を仲間と語り合う中から「じゃあ、自分が建てる家はどうあるのがいいのか」を考えることもあるでしょう。
このように幾重にも重なる対話から、家の姿が浮かび上がってくるのだろうと思います。だからこそ、丁寧な対話を、ゆっくりと、何度でも。
対話から生まれた
きらくなたてものやの定番
対話は、思いつきを生み、実現へとつなげます。建主、職人、素材との対話の中から生まれた「定番」をいくつかご紹介します。
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きらくな網戸
「防犯性を保ちながら、風通しを確保できるような建具があったら」という思いに応えて、建具屋さんがスリット状に横格子の入った施錠できる網戸を作ってくれました。昼間も陽射しの調整に使えて、なかなか便利です。
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敷き瓦
群馬県藤岡市の達磨窯で焼く「いぶし瓦」は、屋根材の定番です。それだけでなく、そこの瓦土をタイル状に焼いたものを、土間の敷き瓦としてよく採用します。一枚一枚の表情が違うのもいいし、蓄熱性もあるというすぐれものです。
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木登りできる大黒柱
表面をきれいに加工した木だけでなく、自然のままに近い形の木を柱や梁に使うことがあります。この家族には、この木を!という思いで選びます。